2014.02.09 Sunday
国家は貴官を……
児玉源太郎の怒声が響いた。
狭い陣中である。軒も、柱も、天井も、震えた。 並居る参謀連中が凝縮した。 児玉が叩き割れんばかりに叩いた粗末な机の上には、一枚の地図が載っていた。 その地図には、同一人物であるべきはずの斥候の死に場所が、別々のところに記されていた。 「しかし、報告ではそうなっております」 憮然として応える参謀に、 「自分の目で確認せなんだのか!」 ふたたび、児玉の声が轟いた。 「参謀たるもの、諜報のためとあらば、単身敵陣の中へも潜り込め!」 そしてその参謀の肩章を剥ぎとると、 「国家は貴官を大学校に学ばせた。貴官の栄達のために学ばせたのではない!」 高校を卒業し、大阪の地に進学し、いまに到っているが、思えば、自分一人で、いまの自分になったのではない。 苦しい家計から学費を捻出してくれた両親、学力を向上させてくれた先生たち、ともに夢を語り合い、励ましてくれた友人たち、学校運営のために、多くの税金を納めてくださった市民の方々、なにくれとなく心配してくれた教授の方々……。 数知れぬ多くの人たちがいてこそ、いまの自分がある。幸せな自分がある。 その厚恩に報いることはできないかもしれないが、せめて精一杯、生きて行こうと思う。 愉しく生きることが、自分を支えてくれたみんなに報いる、精一杯のことだと思うから。 |