2014.03.12 Wednesday
君は容貌の美醜を以て……
久坂玄瑞と云う男がいた。
高杉晋作と共に、「(松下)村塾の双璧」、或いは「松門四天王」(久坂、高杉、吉田稔麿、入江九一)と称された男である。 妻は文。吉田松陰の妹である。 文との縁談には、玄瑞の才能を高く評価していた松陰の強い勧めがあった。 ところが玄瑞にとっては、気の進まぬ相手、もっと云えば、迷惑な話であった。 と、云うのも、文が美人でなかった、ハッキリ云えば、ブサイクであったからである。 文との縁談を持ちかけたのは、松下村塾の先輩である。(司馬遼太郎氏の『世に棲む日々』では、玄瑞のほうがこの縁談について相談したことになっている。) この先輩は、玄瑞が躊躇している理由を知ると、 「恥ずかしいとは思わぬのか」と、一喝した。 そして、 「君は容貌の美醜を以て、妻(の価値)を決めるのか」 と、続けた。 玄瑞は恥じ入り、文との縁談を承諾した。 一喝した先輩も立派ならば、おのれを恥じた玄瑞もまた、立派である。 |