2014.03.16 Sunday
『荒野の七人』論〜13. ガンマンたちの協議
別室に集まると、ヴィンが真っ先に口を開きます。ヴィンは、「こいつは大変な問題だぞ。俺たちもよく話し合って、これからどうするかを決めたほうがいいな」と云いますが、それはクリスを説得するためです。クリスは、あくまで、戦う意志を捨てようとはしていません。
ハリーが、「人助けをしようなんて思うからだ、一度追っ払ったらカルヴェラはよその村へ行くだろうとふんでたのに、エライことになったな」と、暗にクリスを批難します。ガラにもないことをするから、遭わなくてもいい厄介な目に遭うんだ、というわけです。 それに対してヴィンは、「見込み違いは世間に付きものだ。波風は立つものだ」と、クリスをかばいます。そのうえで、「たまには風にそよがなきゃならないこともあるだろう。でなきゃ折れる」と、クリスに翻心を求めます。 状況が変わったのは、クリスの過失ではありません。状況が変わったことについて、クリスにはなんの責任もありません。不本意ではあっても、状況が変われば、その状況の変化に応じて対処しなければなりません。状況に逆らっても、意味のない損失被害をこうむるだけです。 ブリットが、「帰るのか」と、問います。ブリットが訊ねるのは、単なる確認です。ブリットには、是非とも村に留まらなければならない理由はありません。また、帰るほかないと云う考えもありません。ブリットにしてみれば、不利な戦いに挑んでいることは、はじめから分かり切っていることです。村人たちの助勢があろうとなかろうと、ブリットの関知するところではありません。ブリットの関心は、たんに、これから自分たちがどうするのか、と云うことだけです。 「どうしてもここで意地を張って頑張ることもないだろう。村は元に戻ってそれでめでたしだ」というのが、ハリーの意見です。ハリーが村を守る仕事に加わったのは、大儲けできる機会があるに違いないと考えたからです。村がどうなろうと、ハリーにとってはどうでもいいことです。大儲けの機会がなくなった以上、ハリーには村にとどまる理由はありません。 クリスがはじめて口を開きます。「俺たちは契約した、それを忘れるな」と云うのです。 クリスの考えは奇妙です。たしかに彼らは契約したと云えますが、ソテロの通告によって、その契約も破棄されたと考えるのが自然です。ここでガンマンたちが手を引いて村を後にしても、ヴィンの云うとおり、裁判所も文句は云わないでしょう。 クリスは村を守る仕事を、ガンマンの仕事として、引き受けました。たとえソテロに帰るよう通告されても、その通告に従った場合、村はカルヴェラの意のままにされ、本当の意味で、村を守ることはできません。また、少数ですが、カルヴェラたちと戦って村を守ろうとしている村人たちもいます。クリスにとってこのまま村を後にすることは、村を守りきれなかったこと、依頼され、引き受けた仕事に失敗したことを意味します。 いったん村を守ることを引き受けたからには、ソテロたちの意向にかかわらず、あくまで村を守るべきだとするのが、クリスの云う、責任です。 ヴィンもハリーも、クリスの言い分は認めながらも、現在の自分たちを取り巻く状況では、実際にその責任を果たすことはできないだろうと考えています。 多勢に無勢だ、と云うハリーに、クリスも、相手が多すぎる、と、人数での劣勢を認めます。 クリスは、先手を打とうとします。 クリスたちが今後の対応について協議しているとき、チコは、山中で出会った村の娘に会っています。 チコは、カルヴェラたちの野営地に様子を探りに行ったときのことを話しています。 チコはすっかり興奮しています。チコは危険を冒してカルヴェラたちの野営地に赴き、その情報を探ってきたことを、自慢げに話します。そしてそのことがクリスたちを驚嘆せしめたことに、喜びと満足を感じています。 チコはそのときのクリスたちの表情を見て、自分もやっと、彼らの仲間になれた、と、確信したのです。なんとかして一人前のガンマンになりたいと願っていたチコにとって、これまでの願いがかなった瞬間でした。 娘の思いは、チコとは反対です。チコはカルヴェラたちの野営地に赴いた話を、自慢げに話しますが、娘はチコの冒険心を案じています。 娘はチコを愛しています。チコと一緒に暮らす生活を望んでいます。 娘は、村のために、危険をかえりみず、勇敢に戦うチコを愛しました。ところがいまでは、チコが危険に身をさらすことを案じるようになっています。 娘はチコが勇敢なガンマンであることよりも、自分と一緒に暮らせる人間であることを望んでいます。 彼女はやさしく、ゆっくりと、チコの首に手を回します。 チコは娘の愛情にとまどい、慌てて娘から離れます。 チコは、彼女が自分に何を求めているかを理解しています。チコは、自分が娘の望むような生活を送れる人間ではないことを説明します。チコが望んでいるのは、山奥で手にマメを作りながら百姓をする生活ではなく、ガンマンとしての腕前を生かせる生活です。 クリスやヴィン、ブリット、オライリー、彼らと行動をともにし、彼らとともにガンマンとしての生活を送るのが、チコのあこがれる生活です。 娘はチコに寄り添います。彼女はチコのあこがれの強さを知り、自分の力でチコを引きとどめることが難しいことを知りながら、それでもチコと一緒の生活を望んでいます。 チコは娘の思いの強さに困惑し、自分は彼女に向いている人間ではないと説得しますが、自分自身、彼女に惹かれていく感情を抑えることができません。 ともに自分自身、相反する感情を抱えながら、それをどうすることもできない二人は、熱い接吻を交わします。 クリスの云う先手を打つとは、ただちに、カルヴェラの野営地に奇襲をかけることです。奇襲をかけて馬を追い払ってしまえば、カルヴェラたちは徒歩でやってくるより他はありません。クリスは、村人には残って村を見ているよう頼み、他のガンマンたちとともに、チコの案内で、カルヴェラの野営地を襲います。 彼らは山の物陰に身を隠しつつ、カルヴェラたちの野営地に近づきますが、そこには誰もいません。野営の跡はあるのですが、人の姿はまるで見えないのです。 チコは、村を襲いに行ったんだ、と云いますが、銃声が聞えない、と云って、クリスはその考えを否定します。 逃げたのか、と、ハリーが云いますが、そうでもなさそうです。 ガンマンたちは狐につままれたような表情になります。不思議そうな、不吉な予感が、ガンマンたちを捉えます。 奇襲が不成功に終わり、クリスたちは村へ戻って来ます。 そのクリスたちを、カルヴェラが出迎えます。 |