2014.03.19 Wednesday
「で」か「に」か
過日某所にて、『歌姫』を聴く機会に恵まれた。
ギターの弾き語りである。 歌い手はまさに題名どおり“歌姫”と呼ぶに相応しい妙やかなる女性で、その歌声はほのかなる色気を滲ませてしっとりと漂い、玲瓏なるギターの音色と相俟って、聴衆を甘美なる夢幻の境へと誘った。 その情感たっぷりの表現力に舌を巻き、心地よいひとときを過ごしたのだが、ふたつほど、気になったところがあった。 いずれも歌詞の部分で、ひとつは「せめておまえの唄を 安酒で飲み干せば」に続くところである。 その歌い手さんは、「船のデッキで 立つ自分が見える」と、歌っておられたのだが、ここは、「船のデッキに」ではなかろうか、と云うことである。 「船のデッキで」となると、「で」の音が重なって、くどくなる。「で」、「で」と、念を押されているような感じがする。ために、そのあとに続く「立つ自分が見える」が、想像上の出来事であるにもかかわらず、現実感が強くなり、幻想的な色あいが褪せてしまう。 「船のデッキに」となると、「に」の音が軽く、浮遊するような感じがして、「立つ自分が見える」と云う幻想の光景がより淡く、ほんのりと印象される。 後日確認してみると、やはり正しくは「船のデッキに」であり、我が語感もなかなかであるわい、と、大いに意を強くしたことであった。 もうひとつは「やせた水夫 ハーモニカを吹き鳴らしてる」、「やせた蝶々 蜜を探し舞い降りている」と、対になっている部分である。 ここも「水夫」と「蝶々」が対になっているわけだが、それがどちらも「やせた」と形容されているのは、いささかくどいのではなかろうか、と、思ったのである。 こちらも確認してみると、これはこれで正しかった。 我が語感も思ったほど大したものではないようだ。 |