ろ〜りぃ&樹里とゆかいな仲間たち

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Sketch(走り書き)と云うよりは……?

 注)タイトルに「*」のついた記事は「ネタバレ記事」です。ご注意ください。
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板張りの田舎の教室では……
板張りの田舎の教室では、子どもたちが一列に並び、自分の順番が来ると、先生の前に立って、一生懸命、自分の好きな歌を歌っていた。
教科書に載っている歌のなかから、自分の好きな、歌いたい歌を選んで、それを先生の前で、最初から最後まで歌う、それが今回の授業の主旨であり、音楽の試験のひとつだった。
彼の番になり、先生の前に立つと、先生は冷たく云った(少なくとも、彼の耳にはそう聞こえた)。
「あなたは一番だけでいいから」
先生がそう云った理由は、幼い彼にも分かった。彼が自分でも解かるくらいの音痴だったからである。
少なからず傷ついたが、それでも幼いながらに、
――自分が音痴なんだからしょうがない。悔しかったら、ちゃんと歌えるようになればいいんだ。
と、みずからを慰めた。

晩飯が終わり、父は居間に寝っ転がって、テレビの時代劇を見ている。
母は台所で後片付けの洗い物をしている。
彼と妹は、テーブルの椅子に腰かけたまま、まったりとした気分に浸っている。
ふと、ある疑問がわいた。
「なあ、母さん、この歌、なんて歌やったっけ?」
彼はそのメロディを口ずさんだ。
洗い物をしながら、しばらくそのメロディに耳を傾けていた母親は、
「知らんなぁ。聴いたことないわぁ」
と、首を振った。
横で聞いていた妹が、口をはさんだ。
「兄ちゃん、その歌、これちゃう」
と、云って、口ずさんだ。
「そや、それやで」
とたんに母親は、
「ああ、それやったら知ってるわ。有名な曲やん」
――彼が高校時代の、ある夜の一コマである。

したたかに飲んだ。痛飲した。
会計を終えて店を出ると、
「おう、カラオケ、行かんか?」
と、彼の友人は云いだした。
「おっしゃ、行こか」
彼が即答したのは、なにもカラオケ自体が目当てではなかった。
ふたりは同期で、趣味の面でも、考え方の面でも、妙に気が合い、ために入社してから現在にいたるまで、かくも長きに亘る付き合いが続いているのである。
二時間あまり、徹底して飲み、徹底して語り明かしたはずなのだが、二時間くらいで別れるのは、どうにも物足りなかった。
「しかしそれにしても」
ふたりでカラオケ・ボックスに入り、それぞれに飲み物と食べ物――正確に記せば、酒とつまみ――を註文すると、彼はソファにもたれて云った。
「男二人でカラオケっちゅうのも、イロケないな」
「まぁな」
「それにしても、おまえがカラオケ行こう云うとは、思わんかったな」
「いやじつはな」と、彼の友人は云った。「俺はたいがい、音痴でな。飲み会とか行っても、歌われへんねん。
ちょっとは練習しょう、思うても、まさか、男ひとりで、カラオケ屋なんか行かれへんやろ。
だれかと行こう思うても、相手が上手かったら、気が退けて行かれへんやん。
そこいくと、おまえは俺とおんなじくらい歌下手やから、気兼ねなく、来れるねん」
――彼は納得せざるを得なかった。

「ど〜も、“ろ〜りぃ”でしたぁ!」
そう云って右手をあげると、集まった人たちから、あたたかい拍手があがる。
義理かもしれない。オアイソかもしれない。お世辞や、ヒヤカシ、お付き合いかもしれない。
しかし、そのつど思う。
たとえそうだとしても、その拍手は、とっても、あたたかい。
あれだけ下手だの、音痴だのと云われていた自分が、ひょんなめぐりあいからギターを触りはじめ、こうしてステージに出させてもらって、好きな歌を歌い、あたたかい拍手をもらえるまでになっている。

歌えるということは、なんと素晴らしいことか!
人とは、なんとあたたかいものか!
そして、いまこの瞬間は、なんと幸せなものであることか!

ステージでギターを弾き、歌うごとに、そう思わずにはいられない。
| ろ〜りぃ | らいぶ☆にゅ〜す | 11:05 | - | - |


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