2020.01.17 Friday
『蝶々殺人事件』寸感
正確には“読後感”ではなくまだ読んでいるのですが、これがなかなか面白いものです。
横溝正史氏の作品なのですが、おなじみの金田一耕助氏は出てきません。 この作品で探偵役を務めるのは、戦前の氏の作品で活躍していた名探偵、由利麟太郎氏です。 この作品は戦後、『本陣殺人事件』と並行して書かれたものでして、作中の時代背景も、『本陣殺人事件』と同じく、昭和12年となっています。 トリビアめいたことを云えば、『本陣殺人事件』が岡山で起こった、昭和12年11月25日深夜から翌未明にかけての事件であるのに対して、『蝶々殺人事件』は、同じく昭和12年の10月19日から20日にかけて、東京と大阪を舞台として展開されています。そして『本陣殺人事件』が密室の殺人を扱っているのに対して、この『蝶々殺人事件』では、アリバイ・トリックが扱われています。さらに、『本陣殺人事件』が田舎の大時代風の雰囲気なのに対して、『蝶々殺人事件』はハイカラでモダーンな雰囲気を醸し出しています。 この全く趣の異なった両作品を、横溝氏は、ゲラにもメモにもノートにも頼らずに、しかも並行して書きあげられた、と、云うことですが、その力量には驚嘆のほかありません。 今回この作品を読んでいる途中、ふと偶然の暗合に気づき、その妙に笑ってしまいました。 そのひとつはこの作品の探偵役なのですが、それは先述しましたように、金田一耕助氏ではなく、由利“麟”太郎氏でして、まさしく麒“麟”が来たわけです。 そしてもうひとつは、この作品、被害者は死体となって、コントラバスすなわち楽器のケースに入れられていたのです。 もちろん被害者は、自動車会社の経営者ではありません。 |