2014.03.05 Wednesday
虎の威を借る……
「虎の威を借る狐」と云う言葉がある。
辞書には、 「力のないものが他人の権勢に頼って威張ること」、「権力者をうしろだてにしていばる者」、「権勢を持つ者に頼って、威張る小者のこと」、「本人はたいしたことはないのに、ほかの人の権力をかさに着て、威張る者のこと」 等々の意味が載っている。 「あいつ、偉そうなこと言って威張ってるけど、しょせんは『虎の威を借る狐』だよ。部長がいなきゃ、なんにもできやしないのさ」 などと使う。 言われて嬉しい言葉ではない。 どうも「狐」は、「虎」以外の動物たちからは、憎まれ、あるいは蔑まれているようである。 この諺は中国の『戦国策』に由来している。 高校時代、古文の授業で習った人もいるだろう。 念のために、その内容を思い返してみると…… 〈虎に食われそうになった狐が、「私を食べてはいけません。天帝は私を百獣の長としたのです。その私をもし食らえば、あなたは天帝の命に背いたことになるでしょう。嘘だと思うのなら、私が先に歩きますから、ついてきてごらんなさい。私を見て、逃げ出さない獣たちはいないはずです。」と、云った。虎が狐の云うとおりにしてみると、なるほど、他の獣たちが逃げていく。虎は他の獣たちが、自分の姿を見て逃げたのだとは思わず、狐を畏れて逃げたのだ、と、思った。〉 と、云うことである。 この狐、ナカナカの知恵者とみるべきであろう。 虎に食われそうな危険を回避したばかりか、自分を天帝に任命された百獣の長と思わせることに成功している。 さらに、これは推測だが、以後他の獣たちは、「狐のバックには虎がいる」と思い込み、狐をも畏れるようになったのではあるまいか。 あたかも、現在、この諺を口にする人々が、陰ではブツブツ云いながらも、「虎」はおろか、「狐」にさえも、正面からはなにも云えないでいるように……。 |