2015.04.23 Thursday
『神変稲妻車』読後感
『神変稲妻車』なる本を読んでいます。
いわゆるひとつの時代小説でして、いまでこそ下火になっていますが、かつてこのジャンルの読物は、それこそ、一世を風靡したものでした。 海音寺潮五郎氏、山本周五郎氏、藤沢周平氏、五味康祐氏、等々、数多煌めく巨匠たちが、燦然たる諸傑作を、世に送りだしたものです。 さて、その時代小説の一篇、この『神変稲妻車』は、いったいだれの作なのでしょうか? さして有名でない作家の手になる作? いえいえどういたしまして。さる有名作家の、これぞ隠れた名品です。 その有名作家とは? これがなんと驚く勿れ、横溝正史氏なのです。 あの推理小説作家、あの金田一耕助の生みの親、横溝正史氏の時代小説が、この『神変稲妻車』なのです。 横溝正史氏と云えば、その“金田一耕助シリーズ”を拝読していた頃から思っていたのですが、その語り口、その筋運び、いわゆるストーリー・テリングの妙には、はなはだ驚嘆すべきものがあります。 この『神変稲妻車』も、氏のストーリー・テリングの妙が冴え渡っておりまして、あたかも往年の連続活劇を見るが如し、です。 主人公が陥る危機また危機、個性あふれる多彩な人物、敵とも味方とも知れぬそれらの人物が、卍巴と入り乱れ、妖しの幻術、殺陣剣劇の立ち廻り、断崖絶壁の格闘あれば、得体知れぬ毒草の恐怖、そのハラハラドキドキ、波瀾万丈の展開は、「横溝さんは、日本のルーカス、スピルバーグか?」と、目を瞠るものがあります。 “金田一耕助シリーズ”でしか横溝正史氏を知らない方は、ぜひにもご一読ねがいたいものです。 そうすれば、氏の比類のないストーリー・テリングの妙に舌を巻き、あらためて、その才能のすばらしさに、驚嘆することでしょう。 髑髏検校(どくろけんぎょう) (時代小説文庫) 横溝 正史 |