2014.04.26 Saturday
黒澤明監督が……
黒澤明監督がオスカーを受賞されたときのスピーチで、
「私には映画がまだよく分かっていない」
と、述べられたとき、会場から失笑にも似た笑い声が起こった。
それは、「クロサワに映画が分かっていなくて、だれに映画が分かっていると云うのか」、「いかにも日本人らしい謙遜だ」と、云う風に聞こえた。
しかし、氏は別に謙遜されていたわけではないと思う。
氏がインタヴューなどで、
「ご自身の最高傑作はなんですか?」
と、訊かれるたびに、
「次回作です」
と、答えておられたのは、有名な話である。
おそらく黒澤さんは、よりよき映画を追い求め、追い求め、追い求め続けられたのであろう。
そしてときには、映画を捉まえることに絶望して自殺未遂をはかられ、ときには、スタッフに対して怒鳴り散らしたりもなされたのであろう。
それはあくまでも真摯に、真面目に、生一本に、映画を追い求められたがゆえのことだったと思う。
追い求めても追い求めても追い求めても捉まえきれない自分を歯痒く思いながら、しかし決してあきらめることなく追い続けるとき、人は傍から見れば「謙遜」とも思える心性を獲得する。
「謙遜」が美しいのは、「謙遜しなければならない」、「謙虚であらねばならない」と云う道徳的な訓戒を守っているからではなく、おのずと「謙遜」と思われるような心性になるほどに、ある一つのことを追い求め続けるからであろう。
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